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春と僕と修羅

公開日:2022年04月12日

春と僕と修羅

僕は春に立ち尽くしている

もう終わるはずだった人生に呆然と

もしもこれが御伽噺なら

ハッピーエンドで終わるはずだった結末を胸に抱きながら

桜並木を歩き出した僕は

不意に吹いた風に散った花びらに頬を打たれ立ち止まる

瞬間、胸に言の葉の渦が巻き

今にも溢れんばかりのそれを僕は必死で抑えようと蹲った

浮かんでくるのは浮かばれない後悔ばかり

口に出してしまえば心に描いたものと変わってしまう思いを

誰にも渡したくない一心で繋ぎ止める

この絶望も憧憬も僕だけの大切なものだから

そう簡単に分かられてたまるものか

この痛みがあなたに分かるものか

この世界でたった1人の僕とあなたが

一生分かり合うことが出来ないことがこんなにも素晴らしくて切ない

僕の見ている景色をあなたに渡したい

僕の抱えているものをあなたに渡したい

今生きているだけで素晴らしいと笑える奴ら全員を殺したい

僕の書く詩の一片でもあなたの心には届かない

そうした希望と絶望とひとまとめにするにはあまりに雑多で曖昧な感情が僕の胸の中に渦巻いている

僕はついに地面に手をついて嗚咽する

また風が吹く

心がざわめく

胸が張り裂ける

言の葉が舞う

この季節に煽られて芽吹いた名前のない表現欲に報いたい

過去や未来ではなく今この瞬間の情景に人生を賭けたい

悪くないなと思える日があることが本当は何よりも素晴らしいことだと知ってしまった

僕は桜にもたれかかって

言の葉の渦の中に今呑まれていく

僕は春の中にいる